お便り/1月号未掲載分

トロントは和食ブーム

ジミー狩野(牧男)84歳  カナダ・トロント

 「ミシュランガイド」と言えば、世界的に有名なグルメガイドブックだ。同誌の発表では、つい最近トロント版で星を獲得した17軒のレストランのうち、8軒が日本料理店が占めていると話題になった。 1970年代になって本格的な寿司店がトロントに登場して以来、トロントの日本料理店では寿司と天ぷらが和食の代名詞だった。ところが、5〜6年前よりたった24時間以内に日本からの空輸が可能になったためか、「Wagyu (和牛)」とか「Fugu (ふぐ)」または「Omakase (おまかせ)」などの食べ物が日本名で定着した。さらに、本格的な高級懐石料理もトロントで味わえるようになった。トロントもご多分にもれず空前絶後の和食ブームだ。 現在、トロント市内とその周辺地区を合わせると約800軒(オンタリオ州内に1000軒以上)の日本食レストランがあると言われている。しかも、トロント市内至る所には寿司のテイクアウト専門店があり、市内大手スーパーマーケットには必ずのように寿司コーナーが設置されている。 ところで、私がカナダに移住した55年前は、ジャパニーズ・レストランと名のつく店がトロント市内にたった2軒だけだった。それが、街を歩けば至る所にジャパニーズ・レストランの看板が目につく。今やトロントでは何不自由なく日本料理が食べられるようになった。 この半世紀の間に、寿司、天ぷらに続き、ラーメン、焼き鳥、揚げ物串料理、居酒屋、割烹、懐石料理などがトロントで流行して来た。 余談になるが、筆者も40数年前に、街頭で「焼き鳥屋」を開業したいと計画したことがあった。しかし、当時トロントでは「火」を使うビジネスには許可が下りず断念したのだった。ただ、一羽の鶏から14本の串に刺した「焼き鳥」を作れることが判明したのを今でも覚えている。 このようにトロントで本格的な日本料理を普及させ発展に尽力されたのは、「トロント日本レストラン協会」の存在を忘れてはならない。約20年前に発令されたオンタリオ州政府の厳しい条例(魚介類冷凍法)により日本料理レストランの存続の危機に立ち上がった当時のトロント市内日本料理店の経営者たちだ。彼らがオンタリオ州政府のその法律に立ち向かい、署名活動し、陳情しその条例を撤廃させたのだ。そのグループの中心になって活躍したのが銀杏レストラン・オーナーの木村重男氏だ。彼は1973年にトロントへ移住し40年以上日本食レストラン事業に携わり、トロントの日本料理発展に尽力してきた。彼は剣道でも有名で、宮城県石巻市雄勝町出身だ。2代目トロント宮城県人会会長としても活躍された。 さて、トロント日本レストラン協会が主催する「和食祭り」は今やトロントの一大イベントになった。これはトロント日本レストラン協会員で日本料理店の経営者たちが一丸となって、レストラン関係者も総出で一堂に会し本格的な日本料理を提供し、各種の日本食材料や日本酒、日本茶の輸入業者も参加するイベントだ。 それに加え最近では、中華系のオーナーが日本料理店を開業することが多くなった。これは中華系移民が自国の料理では儲からないという理由で日本食レストランを開業したいという人たちが大勢いるからだ。 今後ますます発展するトロントの日本料理だが、どこまで進化するのかを期待したい。