お便り/2月号の未掲載分

私はゴッドファーザー!

ジミー狩野(牧男)84歳  カナダ・トロント

 「ゴッドファーザー」と言ったら、日本ではマフィアのボスを連想するでしょうねぇ。 1972年に公開されたアメリカ映画「ゴッドファーザー」が大ヒットし、その影響が強く日本ではマフィアの親分をゴッドファザーと思っている方も多いような気がします。 しかし、ゴッドファーザーとは、もともとキリスト教カトリックの考え方であり、実際の親とは別に名付け親になったり幼児洗礼を受ける時の親代わりになったりします。 また万が一両親が亡くなった場合に代わりに育てる「後見人」のような立場の人を指します。 とくに、カトリックでイタリア系移民の多いトロントでは、イタリヤ人の友人などからごく普通に「この人は私のゴッドファーザーです。」と、よく紹介されます。 しかし、驚くなかれ私にも「ゴッドファミリー」がいるのです。 要するに、私は正真正銘の「ゴッドファーザー」なのです。
 じつは、トロントに来てすぐ移り住んだコンドミニアム(日本のマンションと同じ)に、私たちとまったく同じ家族構成のファミリーが住んでおりました。 その方達とは、次男が生まれる前から家族ぐるみのお付き合いをしていたのです。 奥さんは鹿児島県出身の日本人の方で、ご主人はイギリス出身の方です。 彼らの子供たちは偶然にも我が家の子供たちと年齢が同じで、長女、長男、次男とそれぞれ一姫ニ太郎です。生まれた年も年齢もまったく同じで、我が家の子供たちとは生まれた時から双子か兄弟姉妹のように育てられて来ました。 しかし、残念なことに母親は癌に侵され幼子たちを遺し他界してしまったのです。 臨終の枕元で「この子らを頼みます。」と、言いながら息を引き取られました。 35年前のことです。 その数年後、ご主人も後を追うように同じように癌で逝ってしまいました。 それ以来、両親を亡くした子供たちを私たち夫婦の実の娘と息子たちのように私が「ゴッドファザー」となって育ててきたのです。
  今でも我が家の子供たちとは実の姉妹と兄弟のように仲が良く、それぞれ次男夫婦には同じように孫たち女の子と男の子たちがおります。 (現在、私の長女は54歳で次男は50歳になりました。) ただ、私の長男は12年前にくも膜下出血で突然他界し、生存していれば52歳です。 今ではゴッドファミリーも両家合わせると、子供5人と孫たち4人の大家族(配偶者も含め10数名)でとっても賑やかです。 毎年クリスマスから新年にかけてのロングホリデーや、イースター、感謝祭、それと家族の誕生会、夏のバーベキュウーなどには私たちの伝統で各自持ち回りで、出来る限り両家全員顔を合わせるようにしています。 とにかく大世帯です。 私たちのゴッドファミリーの娘も息子たちもそれぞれ成長し、我が家の子供達とは幼い頃からお互いに切磋琢磨しながら育ちました。 親はなくても子は育つとはよく言ったものです。 今では立派に成長しそれぞれ要職に就いております。
 ところで、数年前ゴッドファミリーの次男が自分の母親のルーツ探しに訪日しました。 カナダに戻って来た時に彼らのルーツを知って私はびっくりしました。 じつは、彼らの曽祖父は中馬鼎(ちゅうまん・かなえ)翁と言って、なんと日本でベースボールを最初に「野球」と日本語に訳した方だそうです。