特別寄稿/連載「モミジ暮らしの歳時記」より

「百歳を 二人並べて 夏の空」

ジミー狩野(牧男)85歳  カナダ・トロント             

  今朝、日本から嬉しい便りが届いた。 私がいつも投稿している、仙台市で発行の情報紙「みやぎシルバーネット」からである。 そこには、私が川柳の大先輩として敬愛している高橋スマノさんが、めでたく百歳を迎えられたという記事が載っていた。 百歳。 いやはや、これはすごい。 私も今年八十六歳になったので、「もう若くはないぞ」と、少々威張っていたところである。 ところが、百歳の大先輩が元気に川柳を詠んでいる。 そうなると、八十六歳の私はどうなるのか。 「まだまだ子どもじゃないか」 と言われそうである。 スマノさんは、毎月のように「みやぎシルバーネット」へ投稿文や川柳、絵手紙などを精力的に寄せておられる。 しかも、九月号にも、 「百歳の 祝いに唄う ホタル川」 そして、 「百歳を 無事に迎えて 空見上げ」 と、実にお元気な句を発表されている。 百歳になっても、空を見上げ、川柳を詠み、歌う。 これはもう、年齢という数字が完全に負けている。 人間、年齢だけでは測れないものだ。 そんなことを考えていたら、今度はモミジにも嬉しい誕生日が待っていることに気がついた。 今週二十八日は、モミジ・シニア・レジデンスの八月生まれの皆さんの誕生会。 その中には、私がいつも敬愛している髙田美代さんもいらっしゃる。 なんと、美代さんは百六歳を迎えられる。 百六歳である。 百歳でも驚いているところへ、こちらは百六歳。 数字だけ見ていると、こちらの腰が抜けそうになる。 しかし、美代さんを毎日のようにお側で拝見している私はよく知っている。 とにかく、よく食べる。 「好き嫌いがない。」 よく眠る。 そして、何より素晴らしいのが、 「嫌いなものは嫌い」 とはっきり言うことである。 これが実に気持ちいい。 人間、長く生きていると、つい人の顔色をうかがったり、「まあ、いいか」と我慢したりする。 ところが美代さんには、それがない。 嫌なものは嫌。 好きなものは好き。 実に明快である。 ひょっとすると、これが長寿の秘訣なのかもしれない。 ストレスを溜めない。 言いたいことは、きちんと言う。 よく食べ、よく眠る。 なるほど。 長寿の教科書があるとすれば、かなり重要なページになりそうだ。 さらに驚いたことがある。 高橋スマノさんと髙田美代さん。 お二人には、意外な共通点がある。 若いころ、どちらも海外で暮らし、美代さんは中国で看護師を、スマノさんは北朝鮮で看護師をされていたという。 そして、お二人とも、癌でお腹の大手術を経験されている。 なんという偶然だろう。 大きな病気を乗り越え、それでも人生を投げ出さず、百歳を超えてなお元気に暮らしている。 人間の生命力というものは、本当に不思議である。 高橋スマノさんは、一つ一つのことに心を込めて暮らしていらっしゃるそうだ。 それも長寿の秘訣なのかもしれない。 そして、聞くところによると、チャイナドレスもよくお似合いになるという。 これはぜひ、一度そのお姿を拝見してみたいものだ。 百歳のチャイナドレス。 想像するだけで、なんだかこちらまで嬉しくなる。 さて、今週のモミジも忙しくなりそうである。 誕生会があり、百六歳のお祝いがある。 日本では百歳の川柳の大先輩が誕生日を迎え、こちらでは百六歳の人生の大先輩が誕生日を迎える。 こうして考えてみると、私は実に恵まれた場所で暮らしている。 モミジには、人生の大先輩がたくさんいる。 その一人ひとりが、私に「人生とはこういうものだ」と、身をもって教えてくれているような気がする。 百歳になっても川柳を詠む。 百六歳になっても、よく食べ、よく眠り、嫌いなものは「嫌い」と言う。 ならば八十六歳の私も、まだまだ負けてはいられない。 いや、負けるどころか、これからである。 考えてみれば、私などは大先輩方に比べれば、まだまだヒヨ子である。 ヒヨ子が百歳の鶏になるには、あと十四年。 百六歳の鶴になるには、あと二十年。 そう思うと、人生はまだまだ長い。 今朝も私はコーヒーを飲みながら、窓の外の空を見上げた。 青い空が広がっている。 百歳のスマノさんも、きっと同じ空を見上げているのだろう。 そして百六歳になる美代さんも、今日も元気に食事をしているに違いない。 そう思ったら、なんだかこちらまで元気が湧いてきた。 人生、いくつになっても先輩はいる。 そして、いくつになっても、見習うことがある。 百歳を越えてなお、人生を楽しむ先輩方を見ながら、私ももう少し頑張ってみようと思う。 さて、今日も一日。 ヒヨ子の八十六歳、元気に出発である。