お便り/11月号の未掲載分

怪我の功名

ジミー 狩野(牧男)  83歳 カナダ・トロント

 もう背水の陣だった。 カナダ移住には、カナダ大使館で英語での審査インタビューにパスしなければならなかった。 すでに二回も落ちている。英語が全く出来ないからだ。 カナダの移住審査に関しては、一年に一回、ただし三年まで受けられる規則だ。 これにパスしなければカナダ移住は永久に諦めなければならなかった。
 この話しは、58年前の1965年に遡る。 当時、私は運よく東京東銀座のカナダ大使館査証部のすぐ近くで働いていた。 カナダ移住の説明会には、職場を抜け出しては毎回のように出席していた。 カナダ大使館員の人たちからはすっかり顔と名前を覚えられてしまった。 「かの君、何度説明会に来ても、インタビューに合格しなければカナダへは行かれないよ。」と、日本人担当官のTさん。 もうそんなことは分かりきっていた。 しかし、カナダ大使館査証部の説明会に2年も通い続けていると、かなり要領も良くなっていた。 カナダ大使館査証部の入り口で出て来る人を待ってると、移住審査に合格しビザの下りた人たちはすぐ分かる。 満面の笑顔で出て来るからだ。 私はそのような人たちが出てくるのを待ち構え、どんな質問を受けたのか克明に聞き取り調査をしていた。 街頭での聞き取りの仕方はもうすっかり手慣れていた。 質問の内容はほぼ全員毎回同じ内容なのだ。 そしてその英語の質問とそれの答えを一年間かけて丸暗記した。 準備万端整っていた。
  いよいよ三回目の審査インタビューの日がやってきた。 審査官のミスター・アンダーソンの前に緊張した私とワイフが座った。 私は緊張のあまり冷静さを失っていた。 審査官のミスター・アンダーソンはニコリともしない典型的なお役人タイプ。もう二回も彼とは面識がある。密かに彼の人柄なども調べ上げていた。 どんな質問でも答えられる準備はして来たつもりだ。 しかし、英会話はまったくダメで、質問の英単語を聞いただけで何を聞いているのかはすぐに分かった。 一年間の成果だ。質問の答えはオウム返しで答えられる。 あとは得意のスマイルと、知っている英単語を一方的に捲(まく)し立てた。 もう2度もインタビューを受けているので審査官の反応が手に取るように分かった。 ミスター・アンダーソンは何やら書類に書き込んでいる。 今回は確かな手応えがあった。 前回は何が何だか分からぬ内にオフィスから追い出されたが、今回はなぜか違う。 ワイフと顔を見合わせて、審査官の反応が良かったので密かに合図を送った。
  ところが・・・ 最後の質問で、「なぜあなたはカナダへ行きたいのか?」と聞いてきた。 もうその答えは知っていた。知っているつもりだった。何度も練習した答えだったからだ。 「私は私の生活を改善するためにカナダへ行きたい。」と、答えるつもりだった。 ところが、迂闊にも「ライフ」(生活)と「ワイフ」(妻)を間違えてしまった。 しかし、私は緊張してたせいかその間違いすら気づかなかった。 「私はワイフ(妻)を改善するために、カナダへ行きたいです。」と、答えてしまった。 それを聞いた審査官。いつも苦虫を噛み締めているようなミスター・アンダーソンが突然腹を抱えて笑い出した。 私たちは一瞬何が起きたのかその状況すら分からなかった。 しかし、審査官は「ここに署名をしなさい。」と書類を差し出したので、やっと私たちは審査にパスしていることを悟った。
 しばらくして、日本人の担当官 T 氏が「おめでとう。」とやって来て、「かの君、なかなかユーモアがある。と、ミスター・アンダーソンが話していたぞ。」そして、インタビューでの経緯を説明してくれた。 間違いが、審査官の心証をよくしたのだ。 カナダ行きのビザを手にしたのは、まさしく「怪我の功名」だった。

シニアライフ17条の憲法(中)

菅野清一 75歳 太白区柳生

第6条 お金は生きた使い方を
収入は5分の1に  
入りを量りて出ずるを制すべし
せめて樋ロ一葉を 諭吉並に活かして使う

第7条 人生 我以外皆我が先生
人のフリみて我がフリ直せ 反面教師も皆先生
「刮目」すれば自分が見える
我がフリ直せば明日が見える
知恵がないときは 他人の知恵を借りるのも「知恵」というもの

第8条 「スマートエイジング」を意識して
①好奇心・向上心・趣味は「脳活」 進んで面倒なことをやるべし
②気持ち年齢は10歳若く「トオ(10)年取って○○歳」
③長い人生 還暦・古希は米寿・白寿の通過点
自ら楽しみややりがいを見つける自給力も養おう

第9条 5カン(関心.感謝.感動・環境.感性)を磨く
①新しいことに興味を持つ(関心)
②全ての事に 全ての人に日々感謝(感謝)
③ドキドキわくわく ときめきを元気の素に(感動)
④自分の回りを大切に そして地球にもやさしく(環境)
⑤喜・怒・哀・楽を心のビタミンに(感性)

第10条 マサカより もしもの気持ちで行動を
人生、いつ何が起こるか分からない
「想定外」だったでは後の祭り
「人生のリスク管理」を いつも頭の片隅において行動しよう
「老前整理」「修活」は 頭のハッキリしている内に始めよう

第11条 生活に笑いとユーモアを
笑いやユーモアは健康の源泉 
日々笑顔を絶やさずに
一日一回でっかい声で笑ってみよう

ストップ、ザ無差別、大量殺人事件

水戸秀雄   88歳 青葉区栗生

2019年7月の京都アニメーション放火、殺人事件で殺人罪などに問われた青葉真司被告の初公判が、9月5日京都地裁で開催され、被告は犯行を認めたものの被害者や家族に対する謝罪はありませんでした。36人が死亡、32人が重軽傷を負う極悪非道な無差別、大量殺人事件です。このような理不尽な犯罪にストップが掛けられないか考えてみました。特効薬はなく対処療法として、精神衛生法による国民の関係機関に対する通報義務があります。精神衛生法に[精神障害のため自分を傷つけたり、他人に危害を加える恐れのある者を発見した場合は、何人も関係機関(保健所)に通報しなければならない。]と規定されています。しかし一歩間違いれば人権侵害となる恐れがあり、[君子危うきに近寄らず]の風潮もあって、通報は消極的にならざるを得ないのが現状と思われます。通報を受けた保健所では複数の嘱託医師に診察を依頼し、入院可となると強制入院も可能となります。本件被告人 青葉真司も精神障害の疑いが濃厚とのことです。彼の周囲に居住する誰かが、事前に彼の異常な言動に気付いて通報していれば、本件犯行は回避されたかも知れません。何の罪のない人間が殺される悲惨な事件を一件でも減少させるために、積極的な通報を願ってやみません。